【コラムニスト:Michael Lewis】 7月2日(ブルームバーグ):リセッション(景気後退)についてまず知っておくべきことは、決して米ウォール街の終えんを意味するものではないということだ。
リセッションは、自動車レースのフォーミュラ1(F1)世界選手権でレース中断時に使われる赤旗のようなものだ。レース車は、衝突が起こると衝突車の残骸(ざんがい)が片付けられるまでコースを低速で周回し、片付けが終わると、まるで何事もなかったかのようにごう音を上げて加速する。ウォール街とFIの違いは、ウォール街ではこうした災難を味方につけるのが可能なこと。車を密かに前に進めておき、レース再開時にトップに躍り出るのだ。
ただ、いかなるリセッションであれ、克服するためには知っておくべきルールがある。重要なルールは3つしかないが、覚えておくだけでは不十分。肝に銘じて常に実践しなければならない。
ルールその1:会社があなたを裏切る前に、あなたが会社を裏切れ。
あなたがウォール街で仕事をしているなら、おそらく大企業に勤めていることだろう。例えばシティグループやメリルリンチだ。企業の規模が大きいため、あなたは嵐を乗り切るには、数万人の同僚と一緒にいるのが一番だと考え、これ以上良い場所はないと納得させられているかもしれない。これは間違いだ。
従業員数と安全性
従業員の多さがそのまま安全性につながることはほとんどない。状況が悪化すると、従業員の多さゆえにむしろ危険度は増してしまう。腺(せん)ペストが大流行した時のロンドン、ハリケーン「カトリーナ」が襲来した時の多目的ドーム「ルイジアナ・スーパードーム」、そしてニュージャージー州の郊外-。人々は常に、集まるべきではない時に集まるべきではない場所に集まってしまう。
第一次世界大戦当時、機関銃の砲火の真っただ中に飛び込んで行った多くの男たちは、間違いなく自分1人だけではないという確信を持っていたことだろう。
しかしもしあなたがリセッションを打ち負かしたいと思うなら、穴を見つけ、砲火がやむまでその中に隠れる必要がある。この穴の名前はヘッジファンド という。
周囲を見回してみるといい。長年にわたり喜々として働いてきた大企業に見切りをつけ、金融業界の片隅に身を潜めることを決めた抜け目のない人材の多さに気付くことだろう。
先週、シティグループでは、経営破たんあるいは破たん寸前の企業の社債(ディストレス債)や融資への投資を担当していたチームの幹部2人の年内独立が明らかになった。ベアー・スターンズでも、同じ業務を担当していたチームがヘッジファンドのチューダーに吸収される。ゴールドマン・サックス・グループをサブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅融資)危機から守ってきた幹部でさえ、自身のヘッジファンドを立ち上げた。
あなたはこう考えていることだろう。どのヘッジファンドもわたしを必要としていなかったらどうなるのか。自身でヘッジファンドを立ち上げたものの、投資家の資金が集まらなかったらどうするのか、と。そんなあなたには次のルールを紹介したい。
ルールその2:あなたが何を売っているのかを覚えておけ。
好況時に受け取っていた高額報酬に、あなたがどれほど満足していたか分からないが、あなたが売っているものは、真の錬金術ではない。ブローカーやファンドマネジャーの運用成績の平均は、長年にわたりマーケットを下回っているのだ。それでも市井の投資家は、投資アドバイスを求め、その代価を支払い続けている。なぜだろう。
一般的な見方とは異なり、この不思議な車輪を回し続けている力は欲望ではない。ウォール街の錬金マシンの根底にあるもの、それは不安だ。
純金に姿を変える
不況時には、この深遠な真実がより明確になる。不安が恐れに変わるからだ。一方でこの時ほど金もうけに適した時がないのも事実だ。1バレル=300ドルの原油相場見通しや、株式市場の崩壊、数百万戸の住宅差し押さえ、顧客の資金を横領し、橋の上から飛び降りるふりをしているヘッジファンドの運用責任者-。こうしたテレビのニュースは、扱い方さえ分かれば、純金へと姿を変える。
残念なことに、ウォール街の人たちのほとんどは扱い方を分かっていない。彼らは直感的にやっかいな論争を回避する。潜在的な投資家の恐怖心をあおるような出来事に思いをめぐらすことを好まない。自分の仕事は、投資家をなだめることだと思っているため、たとえ異状があったとしても、異状なしを装う。
あなたは新たな方法で投資家にアプローチするすべを習得する必要がある。投資家の恐怖心をあおれば、その投資家は汗ばんだ手を握ってくれる誰かに代価を支払う気持ちに追い込まれる。あなたが動機をあまりにもあからさまにしなければ、その「誰か」があなたになる可能性は非常に高い。ここで、次のルールだ。
ルールその3:あなたの動機を隠せ。金銭的な関心を持っている事実をなるべく見せないようにせよ。
あなたの運用成績の良さを他言してはならない。例えば、知り合ったばかりの女性に対してもだ。リセッションは、世俗的な楽しみや物欲に対する反感と共にやってくる。
あなたは、この社会的価値の変化を認識しなければならない。こうした変化はウォール街でも起こるからだ。妻、子供、同僚の恋愛-。あなたが十分に理解していたと思っていた人達は、何が人生で重要なのかを再発見することになる。あなたは蚊帳の外に置かれる。
でも心配はいらない。一時的な現象だからだ。アメリカはしょせんアメリカだ。
それでも、カネの相対的な価値が低下したことをあなたが認識していない様子は、多くの人の注目を集めることになる。さりげなくかわせばいい。例えば、あなたが運用成績以外の何かに心を動かされたことを示すような趣味を始めるのはいかがだろう。
ダイムラーの最高級車マイバッハを売り、トヨタ自動車のプリウスを買う。庭師を雇って自宅の庭にトマトを植える。庭師には、目立つように表庭に植えるよう指示する。
目標は、好感度を高めることではない。それは高望みだ。あなたが目指している「リセッション時の勝者」は元来、思いやりなど持ち合わせていない。あなたは自分だけの食料と水を積んだ救命ボートに乗っているのだ。目標は、皆があなたに寛容になり、集団であなたに反対するような事態に陥らないようにすることだ。
これがうまくできれば、あなたが次の投資ブームが始まる前にしていたことに皆が気付くころまでには、あなたはすでにヒーロー扱いを受けていることだろう。(マイケル・ルイス)
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